大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和48年(わ)204号 判決

主文

被告人は無罪。

理由

(公訴事実)

被告人に対する本件公訴事実は、別添被告人ら四名に対する起訴状記載の公訴事実中、同被告人に関する記載部分のとおりである。

(無罪理由)

一右公訴事実のうち、工事注文者である鳥取県側の監督員であつた被告人村上正の過失を除くその余の事実については、同被告人も当公判廷で認めて争わず、また関係証拠上もすべて明白である。すなわち、

イ、本件ほ場整備工事は、大栄町大字妻波および由良宿地内にまたがる北条砂丘地のはずれに、以前から存した排水路を掘削拡張して、これにプレハブ排水路をとりつけ整備することを目的として、昭和四七年一〇月二七日鳥取県から馬野建設株式会社が請負い、同年一一月初め以降同社の泉鉄雄が現場代理人となつて同工事を管理・施工し、被告人村上正は、当時倉吉地方農林振興局県営第二係主任で同県知事から命ぜられて右工事の監督員となり、業者側の代理人泉に対して、請負契約約款に基づき一定の指示をなしうる立場にあつたこと、

ロ、馬野建設による右工事は、旧排水路の巾・深さをプレハブ資材が設置可能となる大きさに掘削拡張する作業からはじめられた。ところで一号排水路の一部にあたる大栄町大字由良宿西の郷原石浜附近だけには、以前から約1.20メートル巾の旧排水路の南・北両側に、南側約八二メートル、北側約二二メートルの長さのコンクリート側壁がもうけられており(側壁の高さ1.05メートル、上部の厚さ0.25メートル、底部の厚さ0.35メートル)、当初は、これをとり払う予定であつたところ、かつてこのコンクリート壁を設置した地元民から存置方の要望がなされ、被告人村上において検討の結果、これを容れ、その附近ではプレハブを設置せず、かわりに右コンクリートの両壁を双方とも存置し、水路底はコンクリートの現場打ちをすることに工事進行途中で計画変更がされ、変更後の図面が被告人から泉に交付されたところにもとづいて同年一二月初め頃からは南・北両側壁を残したままこれによつてはさまれている水路底の掘削を行なう作業が続けられたこと(そもそも長く続いた排水路のうちの右の一部だけに、何故コンクリート壁がもうけられたのか、とくに北側壁が何故二二メートルという長さになつているのか等について、それなりの理由があるのであろうが、証拠上は明らかにされていない。)。

ハ、同年一二月一九日、工事現場で、県側検査官による中間検査が行なわれ、被告人村上もこれに参加して事故現場附近を見てまわつたが、その頃には水路底の掘削は両側壁の底部からさらに0.23メートル位下部のあたりまで掘り下げられ、深さの点ではコンクリート打ちの可能な状態になつていた。しかし、その当時、水路底の土砂は、もともと砂の多い土質に加えて地下水の滲出などのため軟弱となつており、そのため現場代理人の泉から、この状態でコンクリート打ちをしてよいものかどうか意見を求められた。そこで、被告人においては、水路底をさらに0.15メートル掘り下げたうえ栗石で埋め戻し、水路底の基盤を強化してからそのうえにコンクリート打設を行なうよう指示したが、その際、右の工事にともなう危険防止の措置については特に具体的な指示はしなかつたこと、

ニ、右の指示を受けた馬野建設は、指示どおりさらに一五センチ掘り下げることにし、翌二〇日午後、水路底に人夫を入れ、人力によつて底部をさらに掘り下げる工事を行なわせたが、その際、両コンクリート壁間に十分な支保工を施すなのど危険防止策を全く行なわず、その点は従前同様であつた。ところが作業開始直後頃、窒然北側壁が南側壁にむかつて倒れこみ、倒れかかつたコンクリート壁の圧力で、当時水路底に入つて作業をしていた人夫らが両側壁間に腹部・腰部のあたりを強く圧しつけられ、その結果、公訴事実記載どおり、死者七名、負傷者二名という大きな事故になつたこと、

ホ、北側コンクリート壁が倒壊した原因は、底部掘削による土砂が北側コンクリート壁の背後に積みあげられ土圧が大きくなつたことによる不安定要素と、掘削による擁壁底部露出による不安定要素の双方の作用によるものであると考えられること、

ヘ、したがつて、床掘作業をする際に、南北両壁間に十分な強度の支保工を施こしてからしておれば、右事故の発生を防ぐことができたと考えられ、その意味では工事施工の安全管理に責任をもつていた担当者の不注意に基づく人災事故と見られること。

以上の各事実は、証拠上明白である。

二そこで、以下、右の事故結果に対する被告人の過失について検討する。

1  一般に、注文者から一定の工事を請負つた建設業者が、自ら現場代理人や主任技術者を選定してその監督・指示のもとに工事を施工する場合、その作業過程における安全管理の注意義務を負うべき者は、直接には現場代理人や主任技術者であると考えられる。事情によつてはその責任がもう少し拡散し、これらの者の下にあつて補佐をすべき立場の者や、逆にこれらの者の上にあつて指示をする会社上層部の者にまで及ぶことも考えられようが、その場合にも、それらの者はいずれも工事を施工する業者側の担当者の範囲内にとどまり、注文者側の関係者にまで及ぶことはないというのが通常であると考えられる。何故ならば、請負工事の性質上、施工工事の作業工程の決定や、各作業工程における危険防止措置の要否、それに必要な資材の調達などは、いずれも業者側の裁量判断に委ねられているのが建前であり、元来注文者が監督・指示すべき事柄ではないと考えられるからである。本件ほ場整備工事についての注文者である県と請負業者である馬野建設の関係も、これとほぼ同様であると考えられ、実質的にみても本件工事の施工はすべて馬野建設の裁量・判断によつて決定され進められていたといえる。したがつて、水路底の掘削作業などの工事にともなう危険防止の注意義務は、原則として分離前の相被告人である泉鉄雄、同小堀立身ら業者側の担当責任者の間で負担されるべきものであつて、特別の事情がない限り注文者側の被告人が負担すべき理由はない状態にあつたと思われる。

2  これに対し、検察官は、注文者側の被告人村上にも工事過程における危険防止についての注意義務があつたと主張するのであるが、その理由は、同被告人が県と馬野建設との間で結ばれた本件工事請負約款上、県側の監督員の地位についていたとの点にある。同被告人が、上司の命により監督員となつていたこと、同契約約款の規定によれば、監督員の職務のなかに、「工事の施工に立ち会い又は必要な監督を行ない、若しくは現場代理人に対して指示を与えること。」も含まれていること(第八条)は争いない。そして右規定によつて被告人の監督を受ける現場代理人でありかつ主任技術者でもあつた泉鉄雄は、工事に関する一切の事項を処理するとの職責を負う立場にあつたことは間違いないので、結局これらの規定のつながりを一見するときは監督員であつた被告人村上は当該工事の施工・管理の全般にわたつて必要な監督・指示を行なうことができ、そのなかには本件で当面問題となつている作業の安全管理という事項についての監督・指示も含まれている趣旨だと読めなくはないかに見える。そして、このような理解のもとでは、監督員の行なう職務は単に監督を行なうことができるという権限の側面だけでなく、事柄の性質・内容や具体的事情、その緊急性の如何によつては監督権限の行使が義務的となる場合のあることを含むものであり、したがつてこの関係において注意義務の根拠になつているとでも考えるほかないことになろうと思われる。

しかし、同規定全体の趣旨をさらによく検討してみると、約款中に右の規程を置き、注文者が自己側の監督員を通じて請負業者に対し監督・指示を行なうことができることとした真の趣旨は、これによつて業者の施工する工事内容が注文者の指示した図面又は仕様書に適合しているかどうか、資材の品質・規格・数量等にも問題がないかどうか、工期に不当な点がないかどうか等を随時監督することができ、不適当な点があるときは時機を失しないでその改善措置を命じることができるようにするためであると考えられる。すなわち、注文者の利益が業者の工事管理不適当のために損なわれることのないよう施工工事の品質管理をすることを主たるねらいとして約款中にもうけられた規定ともいえるものである。かりに右のように考えず検察官主張のように考えると、この規定をもうけることによつて、注文者は、工事過程での危険防止・安全管理義務という、本来工事施工者が負担すべく注文者が負担する理由のない注意義務をことさら拡張して負担するという、自己に不利益な責任負担を約定した特別の規定ということにならざるを得ないが、右規定をそのように理解することはいかにも不自然というほかない。このように考えてくると、被告人村上が請負契約約款中にいう監督員であつたというただそのことだけで、工事の施工を安全に行なうべき注意義務まで負担していたということにはならない。

3  むしろ本件において、被告人のなした措置に、実質的な疑問が感じられる点は、事故前日の一二月一九日工事現場で県側関係者による中間検査が行なわれた際、被告人村上が現場代理人である泉に対し、その時点で掘削されていた水路底の深さよりさらに一五センチ深く掘り下げるよう積極的に指示した際の指示内容や指示の方法に問題がなかつたかどうかの点である。馬野建設において、翌二〇日、そのままの状態で指示通りに床掘りを行ないはじめたところ、その直後に北側コンクリート壁が倒壊し本件事故が発生しているので、右の指示が直接的に事故結果に結びついているかに見え、そのことから監督員の前記指示に工事の安全保持上不適切なところがあり、その点に何らかの過失があつたのではないかと感じられないではないからである。そこで、証拠を検討してみるに、被告人の指示直後に、コンクリート壁が倒壊している事実自体から明らかなように、被告人が床掘りを指示した時点での本件事故現場附近の状況には、かなりの危険を予測させる事情があつたことは否定できない。たとえば、南・北両壁にはさまれた排水路部分はかなり深く掘りさげられ、その深さは、1.04ないし1.06メートルの高さがある壁の底部よりさらに0.23メートル位下層部にまで達し、南壁の底部には栗石が露出していた。倒壊した北側壁の底部には土砂が若干残り、そのため壁の底部や、その下層部が露出してはいなかつたようであるが、しかし水路底掘削の状況からみて北側壁底部附近の掘削も南壁底部とそれほどの大差があつたわけではなく、おおむね底部附近まで掘り下げられていたことは否定できないと思われるから砂丘地にあたつている北壁底部が不安定であつたことは明らかな状態であつた(加えて、北壁側の底部には南側壁の場合と違つて栗石もつめられていなかつた。)。また、中間検査当時、水路底には地下水と思える水が滲出し、そのため地盤が軟弱化していた事実も否定できない。尤も、この点について、被告人村上は、中間検査の時には、本件倒壊地点より三〇メートル位上流にあたる附近で水路底に水が滲出していただけで、事故現場の附近には水気は感じられなかつたと当公判廷でのべている。しかし、事故直後の曇天のもとで行なわれた検証調書添付の現場写真によると、北壁が倒壊した現場附近の水路底にはかなりの水の溜つている個所が見られ、その状態は単に地下水が滲出して土砂が水を含んでいるという程度にとどまるものでないことが一見明瞭でありそのことは証人泉鉄雄の証言中において、事故前水路底に水分が目につく状態であつたためにその状態のままでのコンクリート打設に疑問を感じ監督員である被告人村上の意見を確かめることとしたと述べられている点とも軌を一にしている。これらによれば、北側壁の下部あたりの土砂が、少なくともかなり軟弱化し倒壊を招き易い危険な状態にあつたことは否定できないというべきである。さらにまた、水路底を掘削したことにより生じる土砂は、公訴事実にある通り、北側壁の上方ないしその後方に投げあげられ積みあげられており、それを人力によつてさらに壁からはなれた畑地の方にかきならす作業が同時に行なわれてはいたものの、ならし切れずに残るものも少なくなく、その土圧が北側壁にかかつて倒壊し易い条件にあつたことも、事故直後の前記現場写真から認めることができる。こうした状況のもとで、掘り下げられた水路底に人夫が入つてさらに床掘りを続けると、右のように危険な状態にある側壁がいつ倒れてくるかも知れない不安は素人目にも予知されるのではないかと思われるのに、それまで両壁間に支保工を施こすような危険防止の配慮が全くなされず、危険な状態のまま掘削工事が続けられていたのであり、そのことは中間検査の時点で被告人らの目にもふれていた筈なのである。したがつて、被告人村上が中間検査当時の右の状態のもとで水路底をさらに掘り下げることを指示すると、それまでの工事施工の実際の経過からみて、従前通り両壁間に支保工をほどこしたりしない状態のまま掘削が続けられることになるであろうことや、そのことは側壁倒壊の危険を一層増大させることにつながるであろうことは容易に予見できたであろうと考えられるので、監督員がこのように現状よりも危険を増大させるおそれの強い工事施工の指示をするにあたつては、あわせて支保工のとりつけなど危険の増大を防止するのに不可欠な最少限度の措置についても一体として指示し、少なくとも指示内容どおりの工事を施工することが工事現場にあらたな危険を増大させることにならないように配慮すべき注意義務があるのではないか。したがつて、危険を増大させる工事施工の指示だけして、そのことによる危険防止に不可欠の危険防止措置の指示を忘れたときには、そのことによつて生じた死傷の結果について業務上過失とはいわないまでも単純過失又は重過失等の責任だけは免れえないのではないかとの疑問が残るのである。

右の点は、本件の証拠関係に照らし、微妙な点もあろうと考えられたので慎重に検討したが、結局被告人のいう、あと一五センチ掘り下げることとの前記指示を、直ちに本件致死傷の結果についての過失とまで評価することはまだ相当でないと考える。すなわち、監督員である被告人が床掘り継続を指示した際、側壁倒壊の危険を全く必配しなかつたとの点に迂闊な点があつたことは否定できないが、その指示の趣旨は支保工のない現状のままで床掘りを継続することという掘削方法についての指示であつたとまでは認められず、むしろ水路底の軟弱な状態をそのままにしてそこにコンクリートを打設しても、出来上つた水路底の基盤が弱く不適当なので、コンクリート打ちをする前にその下に栗石をつめておいてもらいたいという、水路底の構造・規格についての細目指示をしたにすぎないと考える余地も十分に残つていると思われる。すなわち、右の掘削状態のもとで右の指示を受けた場合にも、指示された規格どおりの水路底を構築する工事の手順、その際の危険防止措置の要否その他の判断は、原則として工事の施工一切を管理する業者側において現場代理人・主任技術者を中心として判断すべき事柄であることの前述のとおりであるから、そのような相互の共通の意識のもとにおいて被告人村上の前記指示を受けた泉鉄雄らにおいては、自らの判断により床掘り継続にあたつて支保工が必要かどうかを決定して必要な指示をし、そのうえで作業に着手すべきものであると解されたであろうことが、同人の当公判廷における証言中に窺われるのである。また、客観的・実際的にも右のように処理することが期待されているといえる。その場合、被告人村上においても、工事の安全性を考慮してから指示をし、危険を増大させそうな点については指示の時にあわせて注意をしておくのが望ましいことは言うまでもないが、同被告人が業者同様そのことに気付いていなかつた場合にそのことについて刑事法上過失責任を負うべきかとなると、請負工事の前記のような性格上なお疑問が残るのである(そのことは注文者が、県当局という行政主体の場合であつても、民間の注文者の場合と本質的に異なるものとは思われない)。

このように考えると、被告人に全く過失がなかつたと言い切るにはなお躊躇される点はなくはないが、本件が請負業者の行なう工事施工過程から生じていることが否定できないことからして、被告人に過失ありとするにはなお決定的な根拠に欠けているとの心証をぬぐい切れない。やはり、本件は、業者側において、気付いていなければならない危険に気付かなかつたことにより生じた事故と見るほかないと思われる。

もつとも、監督員の指示が、指示文言の外観上、工事の仕様・規格・品質等についてなされたように見える場合であつても、それが監督官庁の担当係官と監督を受ける請負業者という両者の関係のもとにおいては、実質上、文言内容以上の広い範囲で事実上強い拘束力をもつというような実体の認められる場合には、そのことをも考慮したうえで指示のもつ意味を検討しなければならないであろう。しかし、本件においては、被告人村上の指示が、文言上は水路底に栗石を敷くという規格についての指示の如くに見えながら、実は現状のままで床掘りを続けることをも指示したと理解すべき事情は全く認めることができない。当初から支保工を施こさないで床掘りをしても大丈夫であろうとの判断は全く業者側のみでなされた判断であり、そのような掘削方法に危険を感じていなかつたからこそ、被告人からさらに一五センチ掘り下げる指示を受けた時にも、支保工のない同じ状態のままで簡単に掘削を続けることとなつてしまつたものと見られるのである。

4  つぎに、同年一一月下旬から一二月上旬にかけての時期に被告人は両側壁をとり除くとの当初の計画を変更してこれを残すこととし、その場合の図面をあらたに作成して業者側に交付したが、その図面上、北側壁の底部にも栗石が敷かれているかの如くに書きこまれている点が、実際と違つているので、この点に若干の不正確さがあつた点にも疑問がもたれるかも知れない。しかし、変更後の右図面上、右の点に不正確な点があつたとしても、これをとらえて被告人の過失と評価することは、本件についてはもとよりできない。右の図面は両側壁を残した場合、コンクリート打設をどのような規格・寸法で行なうかを説明するために作成・交付されたものであり北側壁の底部がどうなつているかの記載は本来書く必要はなく、またそのことの図示を目的としたものでないことは、図面の性質上、右図面の交付を受けた馬野建設の側にも十分判つていた筈の事柄であつたと言えるからである。

5  当裁判所は、本件事故責任の帰属についての態度が、県側の被告人と馬野建設側とで顕著に異なつていることが審理の冒頭段階から明らかであつたため、問題の所在が、監督官庁側とその監督を受ける業者相互間の複雑な利害関係や思惑によつて影響されることがないよう、時には監督官庁側の被告人村上に対して最も厳しい注意義務としてどの限度までのことが考えられるかとの観点からも検討して来た。

しかし、そのような審理の結果、なお本件証拠関係のもとにおいては同被告人にとつて、過失責任を追及されてやむを得ないとされるような事由を認めることはできなかつた(本件訴因において、検察官は、監督員たる被告人にも危険防止の具的体措置をとるべき直接の責任があり、その点の過失については業者の場合と同様であるとの考え方を示しているが、当裁判所の以上の結論は、右の訴因についてだけでなく間接的な監督責任についても、全く同様である。)。

以上によれば、結局本件公訴事実中、被告人村上正に過失があつたとの点については、まだ立証が十分でないと判断されるので、刑訴法三三六条により主文のとおり判決する。

(大下倉保四朗 秋山規雄 江藤正也)

【別紙】公訴事実

被告人馬野建設株式会社は、本店を鳥取県東伯郡赤碕町大字赤碕七六八番二地に置き、木土建築等の事業を営むもので、昭和四七年一〇月二七日鳥取県知事石破二朗から同郡大栄町大字妻波及び由良宿地内にわたる鳥取県営北条砂丘地区ほ場整備(第一工区)工事を請負つたもの、被告人村上正は、倉吉地方農林振興局県営第二係主任で、同工事の県監督員として同工事の設計・施工の監督等の業務に従事しているもの、被告人泉鉄雄は、前記会社の土木第一課課長補佐で、同社現場代理人として同工事施工の現場責任者をしているもの、被告人小堀立身は、前記会社作業班長で、人夫を指揮して同工事のうち第一号排水路の掘削整備工事施工の業務に従事しているものであるが、

第一 被告人村上正、同泉鉄雄、同小堀立身は、右第一号排水路掘削整備工事のうち、同郡大栄町大字由良宿西ノ郷原石浜附近の工事について、同所には以前から約一メートルの間隔で、南側約八二メートル、北側約二二メートルにわたり設置されていた高さ約1.05メートル、上部の巾約0.25メートル、下部の巾約0.35メートルのコンクリート擁壁があり、その間を掘削して水路底をコンクリートで固め、底部からの高さ0.6メートル、水路巾0.75メートルのコンクリート排水路を建設するいわゆるコンクリート打設作業を行なうものであるところ、右排水路建設のため、同年一二月一九日ころには、既に同擁壁の下端から約0.25メートル低く掘り下げられてコンクリート打設を行なうこととなつていたが、当時右排水路底は地下水等により泥土となつていたため、同日県による中間検査が行なわれた際、計画を変更し、さらに0.15メートル掘削して栗石を埋めもどす床掘り作業を行なうこととなつたのであるが、かかる場合、被告人村上、同泉、同小堀としては、右擁壁の基盤は崩壊し易い砂地であるうえ、両擁壁間には切りばりは施されておらず、水路底部には栗石が見え、地下水が湧き出している状況であり、しかも北側擁壁の背面には、既に掘削した多量の土砂が集積され、そのため右擁壁に土圧がかかつていたから、さらに底部の掘削を行なうときは、同擁壁が倒壊し、作業中の人夫に不測の危害をおよぼすおそれが十分予見されたのであるから、作業開始にあたつては、両擁壁間数ケ所に、堅牢な支保工を仮設する等して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、被告人村上は、被告人泉に対し、危険防止のための適切な指示をせず前記掘削作業を命じ、被告人泉は、被告人小堀に対し、単に「一度に掘らないように少しずつやれ」と指示したのみで危険防止のため必要な具体的措置をとらず、被告人小堀は、漫然倒壊の危険はないものと軽信し、同月二〇日午後一時ころ、人夫稲並豊子ら九名を前記擁壁間に入れて床掘り作業に従事させた共同の過失により、右人夫らが掘削した砂を北側擁壁の背面に積み上げていた同日午後一時二〇分ころ、遂に前記北側擁壁を南向きに倒壊するに至らせ、よつて、前記稲並豊子ら九名をして、南側擁壁と倒壊した北側擁壁との間に強圧させて別表記載のとおり死亡または傷害を負うに至らせたものである。

第二 〈以下省略〉

別表 〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例